グリプス戦役期を代表する可変ニュータイプ専用機Zガンダムと、F91世代直前のクロスボーン・バンガード高級機ビギナ・ギナが、一対一で宇宙空間に相対する時、この戦いは「世代差」と「パイロット適性」のどちらが戦局を支配するのかを測る格好の試金石になる。

Zガンダムはバイオセンサーとカミーユの高い感応力により、敵意や照準の気配すら感じ取って回避とカウンターを選べる機体であり、ビギナ・ギナは全身のフィン・ノズルが生み出す360度機動でF91クラスと連携可能な運動性を発揮するが、火力は標準的な高性能機に留まるという設計思想の差が、この一騎討ちの勝ち筋を大きく塗り分けていく。

セシリーのビギナ・ギナは小型高出力フレームの利点を活かして、Zガンダムの照準を外す滑らかなベクトル変更と高機動戦を挑み、カミーユのZガンダムはウェイブライダーの突入力とバイオセンサー覚醒を武器に、世代差を埋めながら決定打の間合いをこじ開けにいくことになる。

戦力分析

機体

Zガンダム

ZガンダムはMS形態とウェイブライダー形態を高速に切り替え可能な可変MSであり、機体各部に分散配置されたスラスターと空力的シルエットを活かして、宇宙空間においても「掠めるようにすり抜ける」三次元ベクトル変更を連続させることができる万能高機動機だ。

主兵装は高出力ビームライフルとグレネードランチャー、シールド裏のミサイルやビームガン、そして携行時にはハイパー・メガ・ランチャーと、対MSから対艦まで対応可能な火力を持ち、近接戦では二本のビームサーベルと足裏ビームガンを組み合わせた立体的な蹴り技が特徴となる。

ウェイブライダー形態では機体全体を一つの楔として扱い、直線加速からの急制動や、変形を絡めたロール機動など、敵のコンピュータ予測にとって極めて読みにくい軌道を描きつつ、必要とあれば高速体当たりそのものを攻撃手段として転用できる。

さらにバイオセンサーの存在がこの機体の評価を一段引き上げており、パイロットの感情と感応力が昂ぶった際には機体レスポンスやビーム兵器出力が一時的に上昇し、場合によってはビームの巨大化や見えないバリアのような現象を引き起こすこともあり、安定性と引き換えに「オカルトじみた瞬発力」を秘めている。

ただし装甲材やジェネレーター容量はグリプス戦役期相当であり、後年の小型高出力MSのようにフレーム自体が高出力ビームを連続で受け止める前提にはなっておらず、防御の基本はシールドと回避であるため、一度致命打をもらえば生き残る余地は少ない。

ビギナ・ギナ

ビギナ・ギナはクロスボーン・バンガードが誇る高級量産機であり、小型化されたフレームに高出力ジェネレーターと高効率スラスターを詰め込んだF91世代の技術体系に属し、機体各部に配置されたフィン・ノズルによってあらゆる方向へ瞬時に姿勢変更とベクトル変更を行える高機動性が最大の特徴となる。

装備はビームライフル、ビームサーベル、シールド(および劇中描写では実体兵器やミサイル系装備も一部運用)と、一見すると標準的な汎用MSの枠に収まるが、フィン・ノズルによる三次元機動と組み合わせることで、ビームライフルでの射線を「曲芸的な位置取り」から通してくる戦い方が可能であり、単純なスペック以上に被弾しにくく当てやすい機体として完成している。

フレームサイズはZガンダムより一回り以上小さくシルエットもコンパクトであり、被弾断面積の小ささと運動性能の高さが相まって、敵からすれば照準を合わせにくい「小さくて速い獲物」として立ちはだかる一方、決定打となるような戦艦級メガ粒子砲やVSBRは持たず、あくまでMS戦を前提とした火力構成に留まっている。

ビームの出力自体はF91世代相当で高く、Zガンダムの装甲を貫くには十分だが、シールドや回避を含めた一撃当たりの「確定性」という意味では、Zガンダム側のハイパー・メガ・ランチャーや全火力集中と比べるとやや軽く、長期戦になればなるほど「削り合い」の色合いが強くなる。

パイロット

カミーユ・ビダン

カミーユ・ビダンは極めて高いニュータイプ能力を持ち、敵の位置や動き、さらには敵意の向き方すらも直感的に感じ取ることができるため、レーダーやモニターに映る前の「意図の段階」で回避やカウンターを選べるという、通常のエースパイロットを超えた戦闘感覚を備えている。

Zガンダムの可変機構と高機動性を完全に掌握し、ウェイブライダーでの一気呵成の突入からMS形態への変形、ビームサーベルによる斬撃、足裏ビームガンによるキック、そのまま慣性を利用した離脱といった一連の流れを途切れなく繋いで見せる操縦は、コンピュータシミュレーションの範疇を超えた「感覚の塊」のような戦い方と言える。

精神面では繊細で感情の振幅が大きく、追い詰められるほどバイオセンサーとの共鳴が強まり機体性能が跳ね上がる一方で、自身の負荷やリスクを顧みない突撃に傾きやすく、短期決戦には強いが長期の消耗戦や心理的な優位を奪われた状況では不安定さが顔を出すという両刃の剣を抱えている。

セシリー・フェアチャイルド

セシリー・フェアチャイルド(ベラ・ロナ)は本来は貴族階級として育てられた少女でありながら、戦争を通してパイロットとしての資質を開花させた人物であり、その操縦には「自分自身が戦う意思」と「誰かを守るための戦い」という二つのベクトルが同居している。

ビギナ・ギナでの戦闘では、フィン・ノズルを活かした三次元的な回避と、敵の射線をなぞるような軌道からのカウンターを見せており、天性のセンスと短期間で身につけた技量が合わさったことで、「ニュータイプ的な勘の片鱗」を感じさせる場面も見られるが、ニュータイプ専用機を乗りこなすレベルの感応力にはまだ至っていない。

カミーユのような「生まれついての高純度ニュータイプ」と比べれば、セシリーの戦い方はあくまで優れた常人から一歩踏み込んだ領域にあり、機体世代の優位を活かしながらも、極限の状況下で相手の動きを「意識の段階で読む」ような芸当は難しいという差が、最終的な勝敗に影を落とすことになる。

Zガンダム vs ビギナ・ギナ|戦闘シミュレーション

序盤戦

戦闘開始と同時に、Zガンダムはウェイブライダーへと変形し、大きな円を描くように戦場外周へ回り込みながら高度差と距離を取り、ビームライフルによる単発射撃とグレネードを織り交ぜて、ビギナ・ギナのフィン・ノズルのレスポンスと回避パターンを探るような牽制を開始する。

ビギナ・ギナは小柄なシルエットを活かして、全身のフィン・ノズルから噴射されるスラスターを細かく調整しながら、上下左右への急激なベクトル変更を連続させ、ビームライフルの射線をあえてギリギリで外す「かすめる回避」を多用して、Zガンダム側に照準のストレスをじわじわ積み上げていく。

カミーユは遠く離れた位置にいるにもかかわらず、ビギナ・ギナから漂う「軽く、しかし芯の通った意思」のようなものをバイオセンサー越しに感じ取り、相手が経験不足ながらも恐怖に飲まれていないことを悟りつつ、その分だけ機体性能を素直に引き出してくる厄介さを早々に理解する。

セシリーはZガンダムのウェイブライダー突入を警戒しつつ、あえて真正面からのラインには乗らず、斜め上下の位置取りを維持しながらビームライフルでの精密射撃を返し、時折シールドでビームを弾くような動きを織り交ぜて、単なる「逃げ」ではないことを相手に示してペースを奪おうとする。

この段階では互いに浅い擦過傷程度の被害に留まり、Zガンダムはシールド表面とウェイブライダー翼の一部に焦げ跡を刻み、ビギナ・ギナも脚部装甲やシールド縁を何度かかすめられるが、どちらも致命傷には程遠く、「先に大きく踏み込んだ方がリスクを負う」という緊張感だけが積みあがっていく。

中盤戦

中盤に入ると、カミーユはビギナ・ギナの三次元機動が純粋なスラスター性能とセシリーの勘によって生み出されていることを見抜き、ウェイブライダー形態での突入を「縦の速度」ではなく「変形とロールによる横のズレ」に比重を置いたパターンへ切り替え、敵のフィン・ノズルが姿勢変更に使われる瞬間を狙う戦い方にシフトする。

ウェイブライダーで急接近したZガンダムは、ビギナ・ギナのわずかな姿勢固定のタイミングを感じ取りながらMS形態へと変形し、ビームライフルの連射でビギナ・ギナのシールドと腕部を叩きつつ、グレネードでフィン・ノズル周辺に爆風と破片を飛ばしてスラスター制御にノイズを乗せようとする。

セシリーは瞬間的にフィン・ノズルを逆噴射させることで急制動と反転を行い、ビームライフルをZガンダムのシールドと肩部に叩き込むが、バイオセンサーの感応に支えられたカミーユの回避はギリギリのところで直撃を避け続け、代わりにわずかなかすり傷だけが装甲を削っていく。

距離が縮まるにつれて、両機はビームサーベルを抜いての中距離格闘戦へと突入し、Zガンダムは二本のサーベルを交互に振るいながら、足裏ビームガンを混ぜた蹴りでビギナ・ギナの懐へと食い込み、ビギナ・ギナは小型フレームの軽さとフィン・ノズルの瞬時加速を活かして、Zガンダムの死角へ回り込むような軌道で斬撃を返す。

ここで一度、大きな交錯が生じ、Zガンダムのビームサーベルがビギナ・ギナのシールド表面と肩部装甲を抉り、ビギナ・ギナのサーベルがZガンダムの腰部スカートアーマーと脚部サイドスラスターを浅く裂き、両者ともに推力と防御にわずかながら支障を来す損傷を負うが、依然として戦闘続行は可能な範囲に留まる。

終盤戦

終盤に差しかかる頃には、Zガンダムのシールドは何度もビームを受けて表面が焼け爛れ、脚部スラスターの一部は出力低下を起こし、ビギナ・ギナの方もシールドが大きく削られ、フィン・ノズルのいくつかが破片と爆風で欠損し、かつてのような滑らかな360度機動はやや重たさを感じさせるものになっている。

カミーユの周囲には再びバイオセンサーの緑色の光が立ち上がり、セシリーの視線や操縦桿の動き、ひいては「次にどちらへ抜けようとしているか」の気配までもが、感覚として直接流れ込んでくるようになり、Zガンダムの機体レスポンスもその感覚に合わせるかのように研ぎ澄まされていく。

セシリーもまた、目の前で繰り広げられるZガンダムの変形機動とサーベルワークから、相手がただの好戦的なパイロットではなく、圧倒的な感応力と経験を持つ操縦者であることを直感的に理解し、それでも退くことなくビギナ・ギナのフィン・ノズルを酷使して、最後の一瞬までZガンダムの死角を取り続けようとする。

ここでカミーユは勝負を決めにかかる判断を下し、あえて一度大きく距離を取りながらウェイブライダーへと変形し、損傷したスラスターを無視するかのように全推力を前方に叩き込んで、ビギナ・ギナの側面を抉るような高速突入軌道に入る。

ビギナ・ギナはフィン・ノズルを総動員して急激なベクトル変更を行い、ウェイブライダーの突入軸から外れようとするが、いくつかのノズルは既に破損しており、完全な回避には至らず、そのわずかな姿勢固定の瞬間をカミーユの感応が捉え、ZガンダムはウェイブライダーからMS形態へと変形しながらビームサーベルを振り抜く。

ビームサーベルの一閃は、ビギナ・ギナの損傷したシールドと胸部装甲、バックパック基部を斜めに貫き、フィン・ノズルとスラスタークラスターをまとめて切断し、小型フレームの推進系をほぼ全損させる一撃となり、ビギナ・ギナは姿勢と推力を失って宇宙空間に漂う無力な的へと変わっていく。

セシリーは辛うじて機体制御を保とうとするが、推力を失ったビギナ・ギナではもはや戦闘継続は不可能であり、カミーユはトドメの射撃を加える代わりにビームライフルを構えたまま距離を保ち、ビギナ・ギナが完全に戦闘不能であることを確認してから、静かに機体を減速させて戦闘空域を離脱する。

勝敗分析

勝敗判定

この一騎討ちは、終盤のバイオセンサー覚醒とウェイブライダーを絡めた決死の突撃でビギナ・ギナの推進系を切断し、戦闘不能へ追い込んだZガンダムとカミーユ・ビダンの勝利と判定する。

結果分析

結果を分けた最大の要因は、「機体世代によるフレーム性能の差」と「ニュータイプ感応力による読み」のどちらがより決定打に直結したかという点であり、ビギナ・ギナはF91世代に連なる小型高出力フレームとフィン・ノズルの三次元機動によって、序盤から中盤にかけてZガンダムの照準と攻撃パターンを大きく狂わせることに成功している。

しかし決定的な火力の面では、ビギナ・ギナのビームライフルはZガンダムを撃破するには十分な出力を持ちながらも、一撃で確実にコクピットを貫くような戦艦級の破壊力や特殊兵装は備えておらず、セシリーの経験値の問題もあって「当てても致命傷にしきれない」局面が重なったことが、長期的には不利に働いた。

対してZガンダムは、フレームや装甲の世代で劣りながらも、バイオセンサーによる機体レスポンス強化とカミーユの感応力を活かし、ビギナ・ギナのフィン・ノズルが姿勢変更に使われている一瞬の隙を捉え、ウェイブライダー突入からの変形サーベル斬りという「リスクは高いが決まれば一撃で流れを変える」攻撃手段を最後まで温存しておくことで、試合全体としての決定力を確保した。

終盤における一連の流れは、ビギナ・ギナ側のフィン・ノズルの損耗と経験不足から生じたわずかな動きの硬さを、カミーユのニュータイプ的な読みとバイオセンサーが増幅して捉えた結果であり、世代差を越えて旧世代機が新世代機を上回るためには、こうした「人と機体の感応が生む一瞬の爆発力」が必要であることを象徴する展開となっている。

敗者側に勝利の可能性はあったか?

ビギナ・ギナ側に勝ち筋があったとすれば、それは中盤での近接戦をあえて避け、フィン・ノズルを最大限活かした長期のヒット&アウェイに徹し、Zガンダムのスラスターとシールドを確実に削り切った上で、終盤には「可変機動そのものを封じる」レベルまで機動性を落とさせてから詰めに入るという展開だったと考えられる。

セシリーがより徹底して距離管理と削り合いに振り切り、Zガンダムのバイオセンサー覚醒を誘発するような至近距離の殴り合いを避け続けていれば、ビギナ・ギナの小型高出力フレームとビームライフルの出力は、やがてZガンダムのスラスターと装甲を消耗させ、ウェイブライダー突入の精度を落とす形で優位を築けた可能性がある。

とはいえ、それはセシリー側に相応の経験と冷徹な割り切りを要求する戦い方であり、感情と信念を抱えて戦場に立つ彼女の性格や物語背景を踏まえると、Zガンダムのような「圧倒的な気配」を放つ相手に対して、最後まで距離を取り続ける選択を貫くことは難しかったとも言えるため、総合的な勝率ではやはりカミーユ側が上回るだろう。

まとめ| Zガンダム vs ビギナ・ギナ

Zガンダム vs ビギナ・ギナというカードは、グリプス戦役期の可変ニュータイプ専用機と、クロスボーン・バンガードの小型高出力高級機という、年代も設計思想も異なる二機がぶつかり合うことで、「世代差」と「ニュータイプ性」がどのように相殺されるのかを見せてくれる非常に興味深い一騎討ちとなった。

ビギナ・ギナはフィン・ノズルによる360度機動と小柄なシルエットを活かして、序盤から中盤にかけてZガンダムの照準を翻弄し、セシリーの成長途上のセンスも相まって、何度もZガンダムに危険なかすり傷を刻み込むことに成功したが、決定打となる火力と経験の不足が仇となり、終盤の一瞬の隙を突かれて推進系を断たれ、戦闘不能に追い込まれている。

一方のZガンダムとカミーユは、フレーム世代の不利を抱えながらも、バイオセンサー覚醒とウェイブライダーを絡めた高リスク高リターンの突撃を「ここぞ」という場面まで温存し続けたことで、最終的にビギナ・ギナのスラスターとフィン・ノズルをまとめて破壊し、旧世代機が新世代機を技量と感応力でねじ伏せるというドラマ性の高い決着を演出してみせた。

総評として、このマッチアップはトータルの勝率で見ればZガンダムとカミーユに分があるものの、セシリーが経験を重ね、ビギナ・ギナの機動性を「削り潰す戦い」に徹して使いこなせるようになれば、Zガンダム側が常に安全圏で戦えるカードでは決してなく、再戦のたびに異なる展開と結末を見せてくれるポテンシャルの高い組み合わせだと言える。