宇宙での運用を前提とした可変ニュータイプMSと、地上拠点攻撃用として設計された巨大MAが、一対一で殺し合うとどうなるかを検証する。
ZガンダムとアプサラスⅢという組み合わせは、機体コンセプトも運用思想もまったく異なり、本来は交差しないはずの兵器体系同士の衝突と言える。
今回はアプサラスⅢの特性に合わせ、戦場を重力下の地球上、障害物のない広大な平原とし、上空から侵攻するZガンダムが単機でこれを迎え撃つ形を想定する。
超長距離メガ粒子砲による一撃必殺級の火力と、可変MSによる高機動三次元戦闘が正面からぶつかったとき、どちらの設計思想が一騎討ちにおいて有利に働くのかを、段階的な戦闘シミュレーションを通して追っていく。
戦力分析
機体
Zガンダム
ZガンダムはMS形態とウェイブライダー形態を瞬時に切り替えられる可変MSであり、大気圏内でも高推力スラスターと揚力を活かした高速飛行が可能な「半・戦闘機」として機能する。
ウェイブライダー形態では断面積が小さくなり、対空砲火や長距離ビームに対する被弾率が物理的に低下しつつ、音速近い水平飛行と急激な上昇・急降下を組み合わせた立体的なアプローチが可能になる。
武装はビームライフル、ビームサーベル、腰部グレネードランチャー、シールドミサイルなど近中距離を幅広くカバーし、状況によってはハイメガランチャー級の外付け火器を携行することで一時的に砲撃戦にも対応できる。
センサーとコンピュータもグリプス戦役期の標準を大きく上回っており、高速で変化する目標に対するロックオンと射撃補正、対ジャミング性能など、索敵面でも一年戦争期の兵器を大幅に凌駕している。
さらにコクピット周辺にはバイオセンサーが搭載され、パイロットの感情が極限に達した際には機体出力の一時的な増大やビーム出力の異常な伸長、半ばバリアのような防御現象などを引き起こす潜在能力を秘める。
アプサラスⅢ
アプサラスⅢはミノフスキークラフトによる重力制御を利用した地上用飛行MAであり、山一つを吹き飛ばすとされる大出力メガ粒子砲を機首に備えた戦略級拠点攻撃兵器である。
本体は巨大な円盤状のプラットフォームの下に推進ユニットと砲塔部を懸架した構造になっており、ホバリング状態から大気圏内を高速で移動し、敵基地や都市を上空から狙撃することを主目的としている。
主砲であるメガ粒子砲はチャージ時間こそ長いが、発射されれば広範囲の地形を抉るほどの威力を持ち、直撃すればMSクラスは影も形も残さないレベルの破壊力を発揮する。
副武装として機関砲やミサイルポッドを搭載し、接近してくるMSや戦闘機に対してある程度の対空防御を行えるが、その火力と追従性能は主砲に比べれば心もとない。
機動性はミノフスキークラフトによる浮遊と前進に限定される傾向が強く、急激な方向転換やロール、ピッチングといった高G機動には向かず、大型MAゆえにシルエットも非常に大きい。
Iフィールドのようなビーム防御システムは持たず、実質的な防御は厚い装甲とゴリ押しする出力に頼る設計であり、一対一の対MS戦には本質的に適さない拠点攻撃用兵器と言える。
パイロット
カミーユ・ビダン
カミーユは高い空間認識能力と直感的な先読みを持つニュータイプであり、敵意や殺気の向きそのものを感覚的に捉え、視界の外から飛んでくる攻撃に対しても「来る前に身を引く」ような回避行動を取ることができる。
可変MSの高度な機体制御にも優れており、ウェイブライダーでの低空高速飛行からMS形態への変形、着地と同時の射撃や格闘への移行といった複雑な操作を一連の流れとして自然にこなせる。
戦闘中に感情が爆発した際にはバイオセンサーと共鳴し、出力強化やオカルトめいた防御現象を引き出す一方で、怒りや悲しみが行き過ぎれば視野が狭くなる危うさも抱えるが、一騎討ちというシンプルな構図ではそれが「敵を倒す」方向にまとまりやすい。
アイナ・サハリン
アイナ・サハリンは本来テストパイロットとして選ばれた人物であり、基礎的な操縦技量と空間把握能力は備えているものの、純粋なエースパイロットというよりはデータ収集と機体評価を主目的とした立場にあった。
アプサラス計画の中で大型MAの運用経験を積み、ミノフスキークラフトの浮遊特性や主砲発射時の機体挙動には熟知しているが、高機動MSとのドッグファイトや近接戦闘の経験は乏しい。
性格的にも、敵を徹底的に殺戮するよりは戦争そのものに疑問を抱くタイプであり、一対一の決闘で「どちらかが確実に墜ちる」場面に追い込まれたとき、精神的な迷いが操作精度に影響を与える可能性がある。
Zガンダム vs アプサラスⅢ|戦闘シミュレーション
序盤戦
戦場は遮蔽物のない広大な荒野とし、アプサラスⅢは地表からやや高い高度でホバリングしながら前進し、索敵用のセンサーを最大感度にして上空からの接近目標を探知している。
遠方上空に高速接近するZガンダムの反応が現れると同時に、アプサラスⅢは進行方向をわずかに変えながら減速し、メガ粒子砲のチャージを開始しつつ、コンピュータによる予測射撃プログラムにカミーユ機のデータを流し込む。
カミーユは高度と速度の変化から自機がロックオンされつつあることを感覚的に察知し、ウェイブライダー形態に変形して急降下しながら進路をジグザグに変化させ、主砲の初弾を外させることを最優先に機動を組み立てる。
やがてアプサラスⅢのメガ粒子砲がチャージ完了に達し、その砲口から極太の光の奔流が吐き出されると、地表は一瞬で白く焼き切られ、直撃地点には巨大なクレーターが穿たれ、周囲の空気が震える。
Zガンダムはギリギリまで引きつけたのち、急激なロールと上昇で射線を外し、視界の端で光の柱が地表を削り取るのを見ながら、その威力が一度でもかすれば致命的になることを即座に理解する。
主砲の冷却と再チャージにわずかな猶予が生じるこのタイミングを逃さず、カミーユはウェイブライダー状態のまま高度を落としつつアプサラスⅢの死角に入り込む軌道を選び、中距離圏への突入を図る。
中盤戦
主砲を撃ち終えたアプサラスⅢは、接近するZガンダムに対し機関砲とミサイルポッドによる対空射撃に切り替え、ミノフスキークラフトで高度を上下させながら、なるべく距離を維持するような直線加速を試みる。
副武装の弾幕は量こそ多いが、巨大な機体と限られた旋回性能ゆえに射角の変化が遅く、高速で切り込んでくる可変MS相手には致命部を捉えきれず、シールドやウェイブライダー外装をかすめる程度の損害に留まる。
カミーユは弾幕の薄い側面と下方から接近するルートを選び、ウェイブライダーからMS形態に変形しつつ、ビームライフルとグレネードランチャーを連続して発射し、アプサラスⅢの推進ユニットや外付けセンサーを優先的に狙う。
数発のビームが推進部周辺の装甲を貫き、メインスラスターのうちいくつかが炎と黒煙を噴き上げ、アプサラスⅢの姿勢制御は目に見えて不安定になり、機体はわずかに傾きながら高度を維持するのがやっとの状態に陥る。
アイナは機体のバランスを立て直すことに集中せざるをえず、主砲の再チャージよりもクラフトの出力配分を優先せざるをえないため、戦略級の一撃を放つタイミングはさらに先送りされていく。
その間にもZガンダムは距離と高度を小刻みに変えながら、ビームライフルで外部装甲と副武装を一つずつ削ぎ落としていき、アプサラスⅢは巨大な的でありながら、自らの得意レンジに敵を捉えきれない「鈍重な砲台」と化していく。
終盤戦
終盤、アプサラスⅢは推進ユニットの損傷により機首がわずかに下がり始め、ホバリング高度を維持するためにクラフト出力を上げた結果、姿勢制御の余裕がほとんど残らない綱渡り状態に追い込まれる。
アイナは最後の一撃に望みを託し、機体の姿勢を無理に固定してでも主砲の再チャージを優先する判断を下し、Zガンダムが中距離に留まることを期待して砲口の向きを固定したまま出力を溜めていく。
カミーユはその「構え」の重さから主砲再発射の気配を直感し、バイオセンサーが微かに共鳴する中で、ここを決着のタイミングと見定め、一気に接近戦へ移行する決断を下す。
Zガンダムはウェイブライダーに変形して地表すれすれを高速で滑走し、アプサラスⅢの真下へ潜り込む軌道を取ったのち、機体側面へ張り付くように急上昇しながらMS形態に戻り、至近距離からビームライフルを推進部と砲塔の接合部に叩き込む。
連続する直撃で内部フレームと制御系が破壊され、アプサラスⅢは主砲チャージを中断しながら大きく姿勢を崩し、ゆっくりと傾きながら高度を失い、重々しい機体全体が地表へと墜落し始める。
カミーユは墜落途中の巨大機体にとどめを刺すべく、ビームサーベルを抜いてアプサラスⅢの上面装甲に斬り込み、コクピットブロック近辺を縦に貫く一撃を叩き込むことで、戦闘継続能力を完全に奪う。
砂埃と爆炎が収まった後、荒野には傾いた巨大MAの残骸と、その周囲を警戒しながらホバリングするZガンダムの姿だけが残る。
勝敗分析
勝敗判定
この一騎討ちは、Zガンダム(カミーユ・ビダン)の勝利と判定する。
勝因分析
最大の要因は、機体コンセプトと想定戦場の違いが、そのまま一騎討ちの適性差として現れている点にある。
アプサラスⅢは本来、味方偵察や情報を前提にした拠点狙撃用プラットフォームであり、単機で高速可変MSを捕捉し続けるような近距離戦闘は想定されていない。
主砲の火力そのものは戦略級だが、一発ごとのチャージ時間と照準固定が必要な性質上、相手が単機で自由に三次元機動を行える状況では、命中機会はどうしても限定的になる。
一方のZガンダムは、可変機構と高出力スラスターにより、主砲のチャージタイムを利用して死角からの接近と離脱を繰り返すことができ、被弾リスクを抑えながら確実にアプサラスⅢの推進系と外装を削れる。
ニュータイプであるカミーユの先読みとバイオセンサーの補正も、戦略級の一撃をギリギリで回避しつつ、決着すべきタイミングを逃さない判断力として働き、終盤の肉薄からのとどめに直結している。
総合的に見て、アプサラスⅢが持つ「一発当たれば終わり」という火力が、一騎討ちにおける再現性の面でZガンダムの機動力と対応力に及ばなかったと評価できる。
敗者側に勝利の可能性はあったか?
アプサラスⅢ側に勝機があるとすれば、「最初の一射」をどこまで確実に通せるかにほぼ集約される。
具体的には、開戦前からZガンダムの接近方向と高度をある程度予測し、機体の姿勢と砲口を先に固定したうえで、あえてこちらから動かずに待ち構えるような運用を徹底する必要がある。
またミノフスキークラフト出力を使って地表すれすれまで高度を落とし、地面との距離を縮めることで、Zガンダムの低空進入ルートを限定し、そのルート上に主砲の射線を重ねるといった工夫も考えられる。
しかし障害物のない平原という条件下では、Zガンダム側が高度と距離、接近方向を自由に選べるため、奇襲的な初撃を当てるのは難しく、一度外せば後は推進系と副武装を削られる展開に陥りやすい。
アイナの性格的な迷いや殺しに徹しきれない面も、決定的なトリガーを引くタイミングをわずかに遅らせる方向に働く可能性が高く、その意味でも「最初の一撃にすべてを賭ける」戦術の再現性は低いと言わざるをえない。
まとめ| Zガンダム vs アプサラスⅢ
ZガンダムとアプサラスⅢの一騎討ちは、ニュータイプ用可変高機動MSと地上拠点攻撃用巨大MAという、兵器コンセプトの差がそのまま勝敗に直結する典型的なカードである。
アプサラスⅢは山を吹き飛ばすメガ粒子砲という圧倒的な火力を持ちながらも、その一撃を当てるための機動力と追従性に欠け、一対一の対MS戦という土俵では自らの強みを十分に活かしきれない。
Zガンダムは可変機構とニュータイプパイロットを武器に、主砲のチャージタイムを突いて死角からの接近と離脱を繰り返し、推進系を削ってから安全圏でとどめを刺すという、教科書的な「大型MAの狩り方」を実現できる。
結果としてこの対決は、どれほど火力が高くとも、それを運用するための柔軟性と再現性がなければ、一騎討ちという極限の状況では高機動MSに軍配が上がるという事実を、非常に分かりやすい形で示す結論になっている。

